伊佐須美神社は、福島県大沼郡会津美里町宮林に位置する神社です。式内社(名神大社)であり、陸奥国二宮として知られています。旧社格は国幣中社で、現在は神社本庁の別表神社に列されています。
会津盆地の南縁に位置し、宮川沿いに鎮座する伊佐須美神社は、会津地方の総鎮守としての役割を果たしています。境内は広く、内部には鬱蒼とした社叢が広がっています。社殿は2008年(平成20年)の火災で焼失したため、現在は仮社殿を設けたうえで再建中です。
「会津」という地名は、第10代崇神天皇の時代に北陸道を進んだ大毘古命と東海道を進んだ建沼河別命、四道将軍の父子がそれぞれ東北地方を平定した後、この地で出会ったことに由来すると言われています。
この際、国家鎮護のため、国土開拓の神である伊弉諾尊と伊弉冉尊を新潟県境の御神楽岳に奉斎したことが、伊佐須美神社の起源とされています。その後、博士山、明神ヶ岳を経て、欽明天皇十三年(552年)に高田南原の地に遷御され、さらに欽明天皇二十一年(560年)に現在の宮地、東原に御神殿が造営されました。
会津地方では古墳時代前期にすでに大型前方後円墳が築造され、ヤマト王権の東北地方への進出を象徴する重要な神社となっています。
広大な境内には鬱蒼とした社叢が広がっており、自然のままの景観が保たれています。2008年の火災で社殿が焼失し、現在は仮社殿が設けられています。室町時代の朱漆金銅装神輿(国の重要文化財)を始め、多くの社宝や天然記念物、神事が今も伝えられています。
祭神は以下の4柱で、「伊佐須美大神」や「伊佐須美大明神」と総称されています。
伊弉諾尊(いざなぎのみこと)
日本神話における創造神で、伊弉冉尊とともに多くの神々を生み出しました。
伊弉冉尊(いざなみのみこと)
伊弉諾尊とともに日本列島や多くの神々を創造した女神です。
大毘古命(おおひこのみこと、大彦命)
第8代孝元天皇の皇子で、四道将軍の一人として北陸道を進んだとされます。
建沼河別命(たけぬなかわわけのみこと、武渟川別)
大毘古命の子で、四道将軍の一人として東海道を進んだとされます。
『延喜式』神名帳では祭神を1座とし、現在の諸文献では4柱を祭神としています。さらに、塩釜大神と八幡大神も相殿神として祀られています。本地仏は文殊菩薩とされています。
伊佐須美神社の祭神に関連する四道将軍説話は『日本書紀』や『古事記』に記載されています。四道将軍とは、崇神天皇により各地に派遣された4人の将軍を指します。この説話には異同があり、後世の創作とする見解もありますが、阿倍氏族の分布など歴史的背景が存在した可能性も指摘されています。
社伝によれば、崇神天皇10年に大毘古命と建沼河別命の父子が北陸道と東海道に派遣され、会津で出会ったことが創建の始まりとされています。彼らは中央の農耕技術と先進文化を伝え、国家鎮護のために福島県・新潟県境付近の天津嶽に伊弉諾尊と伊弉冉尊を奉斎しました。その後、博士山、明神ヶ岳を経て、欽明天皇13年に高田南原に遷座し、さらに現在地に社殿を造営しました。
文亀3年(1503年)に火災で社殿が焼失し、その後再建されましたが、再び天明3年(1783年)や文化9年(1812年)にも火災で焼失しました。明治元年(1868年)には戊辰戦争の兵火で御旅所・柵門が焼失し、1898年(明治30年)には再び火災で焼失しました。その後も度重なる火災に見舞われながらも再建が続けられています。2008年の火災では拝殿・授与所が焼失し、現在は仮社殿が設けられています。
伊佐須美神社の境内の林は神域として保護されており、自然林が保たれています。特に宮川沿いの東側には巨木が多く、ハルニレ、ケヤキ、キタコブシ、アオナラガシワなどが自生しています。これらの植生は会津開拓前の生態を表しており、植物学的・民俗学的に重要です。
特に「飛竜の藤」と呼ばれる巨木のフジや、「薄墨桜」と呼ばれる桜の木が有名です。これらは福島県指定の天然記念物に指定されています。また、境内南部には「あやめ苑」があり、6月から7月にかけて「あやめ祭り」が開催されます。
奥宮は会津美里町の明神ヶ岳に位置し、旧鎮座地とされています。奥宮の地は、神社の信仰が山岳から平地に移ったことを示すものとされています。「伊佐須美神社奥宮の地」として会津美里町指定史跡に指定されています。
毎年5月5日に「砂山祭」が行われます。この祭りは、塩に不自由しないための祈願として行われる塩作りの神事です。祭りでは砂山を築き、神籬を立てて祈りを捧げます。この神事は一社相伝の秘事として拝観を秘されています。
毎年7月12日に行われる御田植祭は、伊佐須美神社最大の祭りであり、県内でも屈指の本格的な祭典です。この祭りでは「獅子追い」や、農家の長男が女装して踊る「早乙女踊り」、午後には「神輿渡御」や「田植式」が行われます。特に田植え歌は中世の名残を留め、福島県で最も古いものとされています。
伊佐須美神社の御神木である薄墨桜は、八重咲きの花が特徴で、咲き始めは薄墨を含んだ白色から紅色へ、終わりには中心部が濃い紅色になります。この桜の香りは「香りの薄墨桜」と称され、開花時には神社境内が桜の香りに包まれます。毎年4月29日には、氏子や参拝客に薄墨桜の花びらを入れた餅が振る舞われる「花祝祭」が行われます。
毎年6月15日から7月5日まで、伊佐須美神社外苑の「あやめ苑」では「あやめ祭り」が盛大に開催されます。この期間中、150種10万株のあやめが色とりどりに咲き誇り、多くの観光客で賑わいます。