伏見ヶ滝は、福島県会津若松市東山町の東山温泉に位置する滝で、「東山四大滝」のひとつに数えられています。阿賀野川の支流である湯川にかかり、雄滝(落差約5メートル)と雌滝(落差約6メートル)の二つの滝から構成されています。落差はそれほど大きくありませんが、周囲の渓谷美と相まって趣のある景観を楽しめる場所です。
伏見ヶ滝には、古くから「藤身ヶ滝悲恋伝説」が語り継がれています。昔、藤という名の娘が恋する相手への思いを叶えようと、この滝に祀られる不動明王に願掛けをしました。不動明王は娘に、「東山の入口にある松の古木に石を投げ、その石が枝に留まり落ちなければ願いが叶う」と告げました。
娘は何度も石を投げましたが、すべて枝から落ちてしまい、願いは届きませんでした。深い悲しみに包まれた藤は、この滝に身を投げて命を絶ったと伝えられています。その出来事から滝は「藤身ヶ滝」と呼ばれるようになり、やがて時代を経て「伏見ヶ滝」と呼ばれるようになったのです。
伏見ヶ滝を含む湯川沿いには、「東山四大滝」と呼ばれる美しい滝があります。上流から順に、雨降り滝、原滝、向滝、そして伏見ヶ滝です。特に雨降り滝は、高さ10メートル・幅16メートルと最大規模を誇り、水が段ごとに砕け散る様子が雨のように見えることから名付けられました。
伏見ヶ滝を形づくる湯川(ゆがわ)は、会津布引山を源流とする阿賀野川水系の一級河川です。古くから会津盆地の生活や農業を支え、1934年から1958年には湯川放水路の開削が行われ、治水や農業用水の安定供給に大きな役割を果たしてきました。会津若松市街地は湯川やその支流による扇状地に形成され、まさに川とともに発展してきた地域といえるでしょう。
伏見ヶ滝の近くには、歴史ある東山温泉が広がっています。山形県の上山温泉や湯野浜温泉と並んで「奥羽三楽郷」と称された名湯で、多くの文人墨客に愛されてきました。温泉街には土産物店や食堂が軒を連ね、会津名物のソースカツ丼や会津ラーメンを味わうことができます。また、昔ながらの射的場などもあり、懐かしい温泉街の情緒を感じながら散策を楽しめます。
毎年8月中旬には会津東山盆踊りが開催され、湯川にやぐらが立ち、地域の人々や観光客が一体となって踊りを楽しみます。滝や温泉とともに、こうした文化的な行事に触れることで、東山温泉の魅力をさらに深く味わうことができるでしょう。
伏見ヶ滝は、東山温泉の老舗旅館「庄助の宿 瀧の湯」付近にあり、温泉街から気軽に訪れることができます。温泉に浸かりながら滝を巡る観光は、多くの旅行者にとって特別な体験となるでしょう。
伏見ヶ滝は、ただの自然景観としての滝ではなく、悲恋の伝説を宿す神秘的な場所として、訪れる人々の心に深い印象を残します。東山四大滝のひとつとしての美しさ、湯川が育んだ会津の歴史や文化、そして東山温泉の温かいもてなしと合わせて楽しむことで、旅はより豊かなものとなるでしょう。