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中釜戸のシダレモミジ

(なかかまど)

傘を広げたような独特な紅葉、雄大で美しい立ち姿

中釜戸のシダレモミジは、福島県いわき市渡辺町中釜戸字表前に生育している、イロハカエデの奇態樹です。これは著しい「枝垂れ」と「捩れ」を呈した先天性変異株である2株のイロハカエデであり、特異な樹形から植物奇形学上貴重なものであるとされています。1937年(昭和12年)6月15日に国の天然記念物に指定されました。

イロハカエデの特徴

イロハカエデ(別名イロハモミジ、学名:Acer palmatum)は、ムクロジ科カエデ属の落葉高木であり、通常は単にモミジと呼ばれます。春の新緑や秋の紅葉が美しく、日本人にとって非常に馴染み深い樹種です。しかし、中釜戸のシダレモミジは一般的に知られるモミジとは異なる特異な樹形を持ち、その奇妙さから植物形態学および遺伝学的資料としても貴重とされています。

樹形の特異性

中釜戸のシダレモミジの2株は基部から樹幹が捻じ曲がり、幹や枝の各所に多数の瘤(コブ)が見られ、屈曲した枝先がことごとく枝垂れるという、全体的に傘状の奇観を呈しています。大きい方の個体は樹高6.8メートル、幹周は3.5メートル、根周りは2.75メートルであり、小さい方の個体は樹高4メートル、幹周は80センチメートルです。特に大きい方の個体は枝が大きく捩れながら四方へ広がっており、地上1.5メートルの位置から3方向へ分かれて捩れながら外側へ広がっています。

所在地とアクセス

中釜戸のシダレモミジは、JR常磐線泉駅から西方へ約5キロメートルの中釜戸地区にある観音堂の境内にあります。観音堂の境内には大小二株のシダレモミジが並んで生育しており、訪れる人々を迎えます。

所在地とアクセス

中釜戸のシダレモミジは、JR常磐線泉駅から西方へ約5キロメートルの中釜戸地区にある観音堂の境内に生育しています。泉駅より福島県道240号釜戸小名浜線を藤原川水系釜戸川沿いに進むと、中釜戸のシダレモミジの入口を示す表示があります。観音堂は釜戸川に架かる小橋を渡った先の丘陵と水田が接する場所に位置し、国の天然記念物に指定された大小2株のシダレモミジが並んで生育しています。

歴史と保護活動

このシダレモミジは、かつて周囲を竹藪に囲まれていたため外部からは目立たず、昭和初期頃までは近隣の村人だけが知るものでした。保存のための現地調査は植物学者の三好学により1936年(昭和11年)に行われ、その結果、天然記念物として保存することが決定されました。調査の際、大きい方の個体の最も太い枝が地元の児童らによって折損していたため、傷口の補修や周囲に柵を設置するなどの保護措置が取られました。

観音堂の歴史

観音堂には古くからの伝説があり、江戸末期の戊辰戦争で敗れた会津藩士が隠れ住んでいた場所とされています。また、観音堂の隣にはかつて廃寺の建物があり、寺子屋として使用された時期もありました。1950年(昭和25年)頃には観音堂の裏山にスギの植林のため、周囲の竹藪や藪を切り払い、古い建造物の跡と見られる磯石が多数見つかり、福島県教育委員会や地元関係者による発掘調査が行われました。

シダレモミジの遺伝的特性

このシダレモミジから枝分けした個体は通常のモミジが生じるだけで、枝垂れの特性は遺伝しません。また、自然落下した種子から生育するもののほとんどが通常のモミジであり、枝垂れるのはごく一部です。これらのことから、シダレモミジの枝垂れ形質は遺伝的に固定されたものではなく、突然変異によって生じたものと考えられています。

樹木の詳細

樹種: イロハカエデ(カエデ科カエデ属)
大きさ:
大株: 樹高6.8メートル、胸高幹周り3.5メートル、根回り2.75メートル
小株: 樹高4.0メートル、胸高幹周り0.8メートル
指定年月日: 昭和12年6月15日

中釜戸のシダレモミジは、その独特な形状と美しい紅葉で多くの人々を魅了し続けています。地域の人々の手で守られ、学術的にも貴重な存在として、今後もその価値を伝えていくことでしょう。

Information

名称
中釜戸のシダレモミジ
(なかかまど)

いわき・相馬

福島県