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乙字ケ滝

(おつじがたき)

阿武隈川に輝く「小ナイアガラ」

乙字ケ滝は、福島県須賀川市と石川郡玉川村の境を流れる阿武隈川にかかる壮大な滝で、日本の滝百選にも選ばれている名瀑です。落差はおよそ6メートル、幅は約100メートルにもおよび、水量の多い時期には川幅いっぱいに白い飛沫が広がるその姿から、「小ナイアガラ」の愛称でも親しまれています。

滝の名前は、水が乙(おつ)という漢字の形のように流れ落ちることに由来しています。周囲の阿武隈川は「Z」字あるいは「乙」の字のように大きく屈曲しており、自然が作り出す地形美と水の躍動が調和した絶景を楽しむことができます。

歴史と文化 ― 芭蕉が詠んだ滝

この地は歴史的にも文化的にも価値が高く、俳聖松尾芭蕉が『おくのほそ道』の旅の途中、須賀川から郡山へ向かう際に立ち寄ったことでも知られています。滝のそばには、芭蕉が詠んだとされる句「五月雨の 滝降りうづむ 水かさ哉」が刻まれた句碑が立ち、また弟子の曽良とともに訪れたことを記念した像も建立されています。この句は、梅雨の時期に増水した乙字ケ滝の迫力ある光景を見事に表現しており、訪れる人々に当時の情景を想像させます。

四季折々の風景と散策の楽しみ

乙字ケ滝は、四季を通じて自然の美しさを感じられる観光スポットです。春には滝周辺に桜やこぶしの花が咲き誇り、淡い花びらと滝の白い流れが見事なコントラストを描きます。夏は緑が深く、涼風とともにマイナスイオンを浴びながら散策を楽しむことができ、秋には紅葉が滝を彩り、冬には氷柱がきらめく幻想的な姿を見せます。滝の周囲は滝不動尊聖徳太子石像がある公園として整備され、遊歩道も整っているため、ゆっくりと景観を楽しむことができます。

歴史に残る乙字ケ滝の背景

江戸時代、この滝は白河藩によって漁場として利用されていました。村人たちは滝の下で鱒や鮭、鮎などを捕ることが許されていましたが、初漁の魚は殿様に献上するという風習がありました。初漁の時期には藩士が現地に詰めて監督し、その滞在費は村が負担する代わりに、他の賦役を免除されるという興味深い歴史が残されています。

地形と遺跡 ― 太古からの物語

乙字ケ滝は、那須連峰に源を発する阿武隈川が、国道118号沿いにある断層を流れ落ちてできたものです。この地形は石英安山岩質凝灰岩によって形成されており、自然の力が長い年月をかけて作り出した壮大な造形です。さらに滝の左岸には乙字ケ滝遺跡があり、約2万年前の石器や石斧などが出土しています。須賀川市で最も古い遺跡として知られ、人々が太古の昔からこの地に暮らしていたことを物語っています。

アクセス情報

乙字ケ滝へは、東北自動車道・須賀川ICから国道118号を経由して車で約20分、またはあぶくま高原道路・玉川ICから国道118号経由で約5分です。公共交通では、福島交通バス「須賀川駅-竜崎-磐城石川駅線」の「乙字ケ滝」停留所で下車し、徒歩でアクセスできます。

自然と歴史が交わる場所

乙字ケ滝は、美しい自然と深い歴史、そして文化が調和する福島県を代表する景勝地です。滝の水音に耳を傾け、季節の彩りを感じながら歩けば、松尾芭蕉も魅了された情景が目の前に広がります。訪れるたびに新たな発見があるこの地は、まさに心を癒す「福島の小ナイアガラ」です。

Information

名称
乙字ケ滝
(おつじがたき)

郡山

福島県