神社の創建と伝承
縁起によれば、第12代景行天皇の御代に日本武尊（やまとたけるのみこと）が八溝山で東夷の大将を討伐した際、守護として現れた三柱の神が建鉾山より矢を放ち、その矢が落ちた地を「箭津幾（やつき）」と呼び、そこに社殿を創建したことが始まりとされています。この伝承からも分かるように、八槻都々古別神社は武神としての性格とともに、農耕守護神としての性格も色濃く残しています。
社名の由来
「八槻」の地名については、いくつかの説が伝わっています。一つは、日本武尊が放った八本の矢が大地に落ち、それぞれが槻（けやき）の木となったために「八槻」と呼ばれるようになったという説です。また、古文書『陸奥国風土記』逸文には、矢が着いた場所を「矢着」と称し、後に「八槻」に改めたという記録も見られます。いずれの説にせよ、武勇と自然の恵みを象徴する地であったことがうかがえます。
本殿の歴史と建築美
八槻都々古別神社の本殿は、正徳元年（1711年）に一度焼失しましたが、その後、享保年間（1716～1736年）に再建されたとされています。建築様式は三間社流造（さんげんしゃながれづくり）を基調としながらも、奥行きを通常より長くとるなど独自性が見られます。彫刻や細部の装飾も華やかで、当時の建築技術の粋が集められた社殿です。現在では福島県指定重要文化財に登録され、江戸中期を代表する本殿建築として高く評価されています。
随身門の美しさ
本殿と同時期に再建されたとされる随身門は、八脚門形式の堂々とした造りで、彫刻や彩色など細部まで精緻に仕上げられています。頭貫木鼻には獅子や象、麒麟といった想像上の動物の彫刻が施され、蟇股（かえるまた）には鯛や蛸、松竹梅など縁起物が多彩に表現されています。こちらも福島県の重要文化財に指定されており、社殿とともに歴史的・芸術的価値の高い建造物です。
祭神と信仰
八槻都々古別神社には味耜高彦根命（あじすきたかひこねのみこと）と日本武尊が祀られています。味耜高彦根命は農業を司る神として知られ、日本武尊は武勇の神として全国的に崇敬を集めています。この二柱を祀ることにより、武と農の両面から町の人々の生活を守護してきました。
年間の祭事
神社では年間を通じて多くの祭事が行われます。特に注目すべきは、旧暦1月6日に行われる御田植祭で、これは国の重要無形民俗文化財に指定されています。稲作の作業を模した神事は古代から伝わる農耕儀礼で、五穀豊穣を祈るものです。また、12月には霜月大祭が行われ、町全体が祭りの雰囲気に包まれます。その他にも節分祭や新嘗祭など、季節ごとの伝統行事が人々の暮らしに根付いています。
御田植祭の特徴
御田植祭では、田植えを模した所作の後に切餅が撒かれるなど、五穀豊穣を願う儀式が行われます。神事は室町時代以前に遡るとも言われ、農耕神としての性格を色濃く伝えています。この神事を通じて、古代から続く農村文化と信仰の結びつきを今に伝えています。
文化財と見どころ
八槻都々古別神社には数多くの文化財が残されています。本殿や随身門のほか、銅鉢や御正体などの工芸品、木造十一面観音立像などが指定文化財となっています。また、神楽や御田植などの無形文化財も継承され、地域文化の核としての役割を担っています。
秋の紅葉と四季の魅力
境内は自然に囲まれており、特に紅葉の見頃である10月下旬から11月中旬には、多くの参拝者や観光客が訪れます。境内を鮮やかに彩る紅葉は神社建築と見事に調和し、荘厳な雰囲気を生み出します。春には新緑、夏には清々しい木陰、冬には雪化粧と、一年を通じて美しい景観を楽しむことができます。
アクセス情報
八槻都々古別神社は、JR水郡線近津駅から徒歩約10分の場所に位置しています。アクセスの良さからも、観光と参拝を兼ねて訪れる人々が絶えません。歴史と文化、そして自然美を兼ね備えたこの神社は、棚倉町を代表する観光スポットの一つといえるでしょう。
まとめ
八槻都々古別神社は、古代から現代に至るまで信仰を集め続ける奥州一宮であり、その歴史的価値、建築美、伝統行事のいずれもが大変魅力的です。秋の紅葉とともに、伝統文化に触れながら心静かに過ごせる場所として、多くの人々に親しまれています。訪れるたびに新たな発見と感動を与えてくれるこの神社は、福島観光においてぜひ足を運んでいただきたい名所です。